幸せなんだ
~幸せなんだ~
幸せは
つらい時しか感じない
つらい事は
幸せな時しか感じない
幸せだから
できること
幸せだから
悩むこと
幸せだから
生きていること
~黒の村~
化け物だと思うか?…そんなわけない。私は風羅兄を化け物だと思わないし、瀬伊太だってそう思わない。しかし、それは私自身もその“化け物”を身体に宿しているからなのかもしれない。もし、私が竜をもって生まれてこなければ、私は…兄をどのように思っていたのだろうか。
少しの間沈黙が続いた。目の前にいる風羅が生きていたという事実を目のあたりにして、のみこむことが出来ずにいるのに、風羅兄の率直すぎる質問に誰もが戸惑いを隠せないのだ。風羅兄らしいといえば、風羅兄らしいのではあるのだが。
「少し待ちなさい、そこの君。」
息を切らせながらも、センに押さえつけられていた王が叫んだ。しかし、私はこの静かさを破った声はひどく醜く聞こえた。袋のねずみが…何をほざく。
「諸君は、こいつを信じるのか…?!風羅はもう2年前に死んでいるのだ!ここに生き返ってくるはずがなかろう!!……私を抑えているこいつらも逆賊…。諸君はこの国の王である私を信じるか、誰かも分からない化け物のこいつを信じるのか。」
「…ちげえ…ちげぇよ!俺らはそんな奴じゃねぇ!」
瀬伊太の叫ぶ声が聞こえた。その声は今…ここにいる私にはその瀬伊太を抑える事も出来ないんだと痛感させた。
しかし、下にいる私には王の、そのほざきでで村人達の心が少し変化していったのが分かった。いや、心の変化ではない。なにかが私たちを襲ってきているような感覚だった。体が気持ちの悪い空気を吸い込み、背中がぞっとしてくる。
「アナナス…!」
アナナスの足がふらりと、ふらついたと思った瞬間アナナスはその場にどっと倒れた。そして、アナナスに続いて村人達も倒れていく。
~誘い~
「…諸君はもう、知っているだろうが…私は心の無二であった弟を亡くした。…結果として私は王という座についたが、今もなお、その事は私の心の中に深く刻まれている。…もう、こんな事は起こってほしくないと、私は…いや、ここにいる皆が願っていた事であろう。」
その言葉に一気に村人達がざわめきだす。この王の言葉からして、誰もが予想できたのであろう。瀬伊太が死んだという偽りの事を。ちょうど2年前、風羅兄もこのようにして死んだと告げられた。事実を隠したまま病死だと偽って。
「皆はもう分かったと思うが、瀬伊太は死んだ。」
二度目だ。この言葉を聞くのは。二年前はかなりの衝撃を受けたが、この言葉が創りものだと知っている以上、私はなんとも思わない。
人々の間から悲しみの声が次々と聞こえる。せっかくの歓喜に満ち溢れるはずの式が、台無しになったかのように見えた。最前列について王の顔がよく見えるようになった私は目を合わせないように、王を見上げる。…その王の顔は自信に満ち溢れていた。
この悲しみを見て、どうして王は笑っていられるんだ。私の父は…ここまでも曲がっていたのか―。
「しかし、嘆くことはない。今、新たに誕生する若き王がここにいるではないか!」
一人、明るい声を出す王に奏太は手招きされる。しかし奏太は青い顔をしてそこに突っ立ったまま動こうとしなかった。顔には不安を思い切り浮かばせている。
「奏太…私も…瀬伊太もここにいる。」
思わず呟いた私に、アナナスは優しく微笑んだ。その微笑に私の張り詰めていた緊張の糸が切れる。力が入っていた身体から一気に何かが抜けていったような気がした。…大丈夫だ。
「瀬伊太が来るぜ。」
~~
「…とその前に、諸君に伝えておきたい事がある。」
どの村の家よりも高い台が村の中央にそびえ立っていた。周りでひしめき合うちっぽけな人の中に、突き抜けた白いもの。それは存在感は確かにあるが、たった一つ、孤独であるかのようだった。
まるで…私たちの城のように。
私は、アナナスと村の観衆達をのけながら必死で一番前列へと移動していた。どこかに瀬伊太達がいるんじゃないかと時々周りに目をやりながら、大きく大きくなっていく建物を目指して。
「妃羅さん…妃羅さん!…いたよ、瀬伊太たちが!!」
先頭を歩いていたあななすが、急に立ち止まって振り返った。その顔は笑顔そのものだ。それにつられて、私も思わず笑顔になる。アナナスが指を指す方には確かに瀬伊太がいた。だが、その姿を確認できたのはほんの一瞬の間だった。これだけ人がいれば、立ち止まっていても、動かざるを得ないのだ。しかし、やはり瀬伊太達は来ているんだな。
「アナナス。瀬伊太達が来ていると分かった以上、早く前列に移動するぞ。」
「…合流はしないのか?」
そう言った時、はぐれないようにつないでいた手がぱっと離れた。だが、すぐに手に温かい温もりを感じた。昔、感じたことのある温もりだった。やはり、あの時の少年はアナナスだったんだな。
「私たちがいることで、邪魔になることもあるかもしれない。それに、一緒に行動するより、別で動いた方が王にはばれにくいだろう。」
「そっか!さすが妃羅さんだ。」
しん、と静まり返るこの空間で、誰にも聞こえないような小さな声で私も、アナナスもポソッと呟いた。
私はアナナスの背中を追いながら思った。これは…城の中で戦っているとと一緒なのだと。
村にいるといろんな事に気付かされた。私達はこの国の代表であるのに、本当に大勢の人の事を考えているのかと。 私は正直、たくさんの事を知らなかった。私達の祖先が悪いことをしてきたという事実を、失くすために私は動いた。そして、風羅兄を見つけるために。だがそれは、自分達のだけの利益だけしかなかったのだ。だから私達の幸せを願うのならば、その決着を村の人達に見てもらいたい。村の人たちが知らない事実を、私は知ってもらいたいと思ったのだ。 瀬伊太達が何をするのかはわからんが、私もこの幕を終わりにさせる。
~記憶の嘘~
丁度城をぬけてから、30分経ったというくらいか。アナナスが、道の途中でふいに立ち止まって、そこから一歩も動かなくなった。何をしてるんだ。今は急がなくてはならないというのに…。
しかし、アナナスの顔を覗いてみると、ただ単に突っ立ってるわけではないみたいだった。
「おい…。どうしたんだ、アナナス。」
私は片方の眉をあげて、アナナスに問いかけた。アナナスより前にしゃがみこむ。
「わっ!妃羅さん!!」
「…なんだ。そんなに驚く事もないだろ。」
アナナスは私をみたとたん、後ろに慌てて下がり、そのまま地面に尻をついた。地面が草花でうまっていたせいか、トスという小さな音しかしなかった。だが、アナナスの驚きようは、こっちが逆に驚いてしまいそうな程、ひどかった。
私は服の地面についた部分を、さっとはらった。
「…で、何を考えていたんだ。」
「あ、うん。…あのさ、おれ、記憶がないって言ってたじゃんか…。あれ、嘘なんだ。」
ゆっくりと立ち上がったアナナスは、私に背中を向けて、さらりと言った。言った後、アナナスはすぐにしゃがんで丸くなる。私たちに嘘をついてきたことを、悪く思っているんだろうが…何故アナナスは嘘をつく必要があったんだ。
「どういうことだ?」
「…おれ…本当は最初から妃羅さんの事、知ってたんだ。……妃羅さんって女だろ?」
私は少しためらった。別に性別がばれる事は、もう良かったのだが、私を知っていると言っているのに、どうして最初は私を男だと思っていたんだ?…もしかして、それも芝居だったりとかするのだろうか。
「…あぁ。そうだが。」
「妃羅さん覚えてないかなー…。おれ達、昔会ったことあるんだぜ。あのさ…10歳くらいの時…」
「ちょっと待て。…私を知っていたんなら…なんで男だと思ってたんだ。」
「だって…妃羅さん。昔から男っぽかったじゃん。だからおれ、妃羅さんが男だと…。」
アナナスは一瞬ちらっと、私の方を向いた。私が怒るとでも思っているのか。まぁ、確かに昔から男っぽいと、周りから言われてきたが…。
「女って知ったのは最近だよ。……けど、やっぱり妃羅さんは覚えてないか…。」
「だから、何の事だ?」
私がそう聞くと、アナナスは黙り込んだ。しかし、私の視線を背中で感じたのか、一度大きく息を吸って、ふぅと吐いてから話し始める。
「…一回さ。風間と砂良が同盟組もうとした事があったんだ。」
「ほぅ。それは初耳だな。」
「…まぁ、これは公にはされなかったからな。…その時に、おれは裏切ったりしないようの道具にされた。」
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